はじめに ── なぜ今、設計思想を語るのか
1995年12月1日。バーチャルボーイという、赤と黒だけで構成された一切無駄のないこだわり抜かれたゲーム機の、事実上の最後の輝きとなるソフトが発売された。『バーチャルボーイワリオランド アワゾンの秘宝』。全14ステージ、宝物10個、変身6種類、大ボス4体。全19本しかないバーチャルボーイのソフトの中では、最大クラスのボリュームを誇るアクションゲームである。
しかしこのゲームには、数字では測れない設計上の知恵が詰まっている。手前と奥の2層を行き来する立体視システムを「見せるための演出」ではなく「遊びの根幹」に据えた唯一のゲーム。変身を「パワーアップ」ではなく「探索の鍵」として機能させた設計。宝物の個数とクリアタイムで6種類に分岐するエンディング構造。1995年、たった16メガビットのカートリッジに、これだけの設計思想が圧縮されていた。
2026年2月17日、Nintendo Switch Online + 追加パックの「バーチャルボーイ Nintendo Classics」として、このゲームが30年ぶりに復活する。専用ハード(9,980円/ペーパーモデル2,980円)で立体視も体験可能だ。
攻略サイトはすでに用意してある。宝物の場所も、ボスの倒し方も、ベストエンディングの条件もすべて書いた。このガイドの目的はそこにはない。
このガイドは、14個のステージをひとつずつ読み解き、その「断面図」を描くことを目的としている。ワリオがエレベーターで次の階層へ登っていくように、第1層から第14層へ、順に進んでいく。攻略情報ではなく、「視点」を提供するガイドだ。プレイ前に読めば、ステージを見る目が変わる。プレイ後に読めば、「なぜあれが面白かったのか」が言語化される。そういう読み物を目指した。
地底の洞窟から始まり、廃墟、水中、森林、滝、砂漠、スイカ園、城跡、工場、神殿と登り続け、最上層のデーモンヘッドに挑む──。このゲームは「下から上へ」の一本道だ。第1層から第14層まで、ワリオと同じ順路で登っていこう。
開発背景 ── 赤い世界を創った人々
本作の開発は任天堂開発第一部(R&D1)が担当した。プロデューサーは横井軍平氏。ゲーム&ウオッチ、ゲームボーイ、そして十字キーという「遊びの基盤」を世に送り出した人物が、バーチャルボーイという挑戦の最終章で送り出した作品がこれである。
ディレクターは清武博二氏と松岡洋史氏の共同体制。前作『スーパーマリオランド3 ワリオランド』と同じR&D1のチームが、ゲームボーイの2D設計で培ったノウハウを立体視に転用した。ここに重要な設計判断がある。彼らは「3Dのゲーム」を作ろうとしたのではない。「2Dの文法を、奥行きで拡張する」ことを選んだのだ。
音楽は戸高一生氏。後に『どうぶつの森』シリーズで世界的に知られることになる作曲家だ。赤色LEDの画面しかない本作に、音楽が果たした役割は大きい。色のない世界で場面の空気を作り出しているのは、ほとんどがサウンドの仕事である。なお、エンディング画面で約1分15秒待つと隠しメロディ「トタカのうた」が流れる。これは戸高氏が任天堂の様々な作品に仕込んでいる署名のようなイースターエッグだ。
バーチャルボーイの開発コードネームは「VU」。Virtual Utopia(仮想的な理想郷)の略である。横井氏は「バーチャルリアリティ」ではなく「バーチャルユートピア」という言葉を用いた。現実を再現するのではなく、全く別のゲームの世界を創る。この哲学を最も忠実にゲームとして結実させたのが、本作だったと言っていい。
設計概論 ── 4本の柱
全14ステージの設計を貫く柱は4本ある。個々のステージを読み解く前に、この「設計文法」を理解しておきたい。
手前と奥のレイヤーを行き来する立体視システム。ジャンプ台で移動し、宝物や隠しルートは「反対側」に配置されることが多い。
ブル・イーグル・シードラゴン・キングドラゴンの4形態。変身は「パワーアップ」ではなく「探索の鍵」として設計されている。特にイーグルのパワーアップアイテムとシードラゴンのパワーアップアイテムを組み合わせることでキングドラゴンに最終進化するシステムは、単なる強化ではなく「2つの能力の融合」という新しい発想だ。
10個の宝物とクリアタイムの組み合わせで6種類のエンディングに分岐。収集がストーリーに直結する構造。
各ステージでカギを見つけ、扉を開け、エレベーターで次の層へ上がる。ステージセレクトはなく、一本道で上層へ向かう。ステージとステージの間にはボーナスステージの階層があり、ハートかコインのボーナスを選べる。緊張の合間の息抜きであり、コインが減るか大きく増えるかのギャンブル性もある。
この4本の柱が交差するところに、各ステージの「設計意図」が立ち現れる。たとえば「2層構造」は全ステージに共通するが、その使われ方はステージごとに異なる。水中では浮力と組み合わさり、砂漠では沈む足場と組み合わさり、工場ではベルトコンベアと組み合わさる。同じ文法で違う文章を書く──。それがこのゲームの14ステージの設計原理だ。
もうひとつ重要な構造がある。全14ステージは、通常ステージ10+ボスステージ4で構成されるが、4ステージごとにボスが配置されている(4, 8, 12, 14)。つまり3+1のリズムが3回繰り返され、最後にラスボスで締まる。このリズムは、プレイヤーに「探索→探索→探索→試験」というサイクルを3周させ、4周目で物語を完結させる設計である。
第1層 洞窟 ── 赤い世界への入口
「教えすぎない教科書」
| テーマ | 洞窟 |
| 宝物 | 招き猫 |
| 設計上の役割 | チュートリアル ── ゲームシステムの導入 |
| 必要変身 | ブルワリオ(宝物入手時) |
設計の核心
ステージ1の設計意図は明快だ。「2層構造」と「変身」と「カギ」という3つの基本ルールを、テキストなしで体験させること。重要なのは「教えすぎない」という設計判断にある。
開始直後、プレイヤーは右に進むしかない。すると最初のジャンプ台が現れる。上を向いてジャンプすると、ワリオが画面の奥へ飛ぶ。このたった1回のアクションで、プレイヤーは「このゲームには奥がある」と理解する。ここに説明テキストは一切ない。体験させることで理解させている。
2層構造の使い方
ステージ1の2層構造は意図的にシンプルに設計されている。ジャンプ台は数カ所しかなく、手前と奥の対応関係が一目でわかる。溶岩の孤島にカギを置くことで、「ジャンプ台で移動しないと取れないものがある」というルールを自然に教えている。
変身との関係
宝物「招き猫」の入手にはブルワリオが必要だが、ステージクリアにはどの変身も要らない。ここにも設計判断がある。変身なしでもゴールできる。しかし変身すれば、通常では壊せないブロックの奥に宝物部屋がある。「変身は任意だが、変身すれば世界が広がる」という関係を、最初のステージで提示しているのだ。
第2層 廃墟 ── 奥行きの文法
「見えているのに行けない」
設計の核心
ステージ1が「奥がある」と教えたとすれば、ステージ2は「奥と手前は別世界である」と教える。廃墟という舞台設定が効いている。崩れた壁の向こう側、鉄格子の奥側。手前から見えているのに直接行けない場所がある。ジャンプ台を探し、迂回して到達する──。この「見えているのに行けない」という焦れったさが、探索の動機そのものになっている。
2層構造の使い方
ステージ1ではほぼ一方向だった手前⇔奥の移動が、ステージ2では複数回にわたり双方向に展開される。プレイヤーは「行って、戻って、また行く」という動線をたどることになる。この時点で、2層構造が「奥に行って終わり」ではなく「行ったり来たりするもの」だと理解する。
変身との関係
宝物の入手にブルワリオが必要な点はステージ1と同じだが、ステージ2ではブロック破壊が探索ルートの開拓に絡んでくる。つまり変身が「宝物部屋の鍵」であるだけでなく「探索ルートそのものの鍵」として機能し始めるステージでもある。
第3層 水中迷宮 ── 重力の書き換え
「ルールが変わる瞬間」
| テーマ | 水中 |
| 宝物 | ニワトリ |
| 設計上の役割 | 操作ルールの変更による難度上昇 |
| 必要変身 | ブルワリオ、シードラゴンワリオ |
設計の核心
ステージ3の設計判断は大胆だ。プレイヤーがステージ1と2で学んだ操作感覚を、一気に書き換える。水中ではジャンプが泳ぎに変わり、重力が軽くなり、移動速度が落ちる。Aボタンで上昇し、十字キーで方向を調整する──。陸上で身についた操作の「常識」が通用しなくなる。
ここに設計の狙いがある。2ステージ分の慣れが生まれたタイミングで、ルールを変える。プレイヤーは「このゲームのルールは固定ではない」と学ぶ。この認識は、以降のステージで新しいギミックに出会うたびに「今度は何が変わるんだろう」という期待感に変換される。
2層構造の使い方
水中では2層構造に「浮力」という要素が加わる。手前と奥の移動に加え、上下の移動が常に発生する。結果として、プレイヤーの意識は「左右+奥手前」の横方向から「上下+奥手前」の縦方向に拡張される。空間認識の次元が一段上がるステージだ。
変身との関係
宝物にはブルワリオのヒップドロップ、ダイヤモンドにはシードラゴンワリオの火炎が必要。水中で火炎というのは矛盾しているようだが、ゲーム的にはここで「シードラゴンワリオ」の存在を認知させる設計になっている。ステージ5以降、シードラゴンワリオとキングドラゴンワリオの出番が増えるための布石だ。
第4層 ダイナソーフィッシュ ── 最初の試験
「3ステージ分の学びを問う」
| タイプ | ボスステージ |
| ボス | ダイナソーフィッシュ |
| 設計上の役割 | 第1サイクルの試験+達成感 |
設計の核心
全14ステージの構造は「3+1」のリズムで組まれている。3つの通常ステージで新しい要素を学び、4つ目のボスステージでそれを試される。ダイナソーフィッシュは、その最初の「試験官」だ。
ボス戦の設計はシンプルだ。パターンを読み、頭を踏む。水中ステージの直後に配置されたこのボスは水上に出現するため、ステージ3で強制された水中操作から解放される。この「制約からの解放」が快感を生む。重い水の中を耐えてきたプレイヤーに、陸上のボス戦という「ご褒美」が与えられる設計になっている。
2層構造の使い方
ダイナソーフィッシュ戦は2層構造で成り立っている。ただし、プレイヤーは奥のレイヤーに行くことができない。ボスが奥にいるときは、奥から攻撃してくるのでそれをかわすことになる。手前に来たときがチャンスで、同じように攻撃してくるが、スキを見て踏みつければいい。「奥=敵の領域、手前=自分の領域」という構図が、2層構造を攻守の切り替えとして機能させている。最初のボス戦にして、2層構造が「探索」だけでなく「戦闘」にも使えることを示した設計だ。
第5層 森林 ── 変身の試練場
「能力の掛け合わせ」
| テーマ | 森林 |
| 宝物 | 懐中時計 |
| 設計上の役割 | 変身システムの深化と複合利用の要求 |
| 必要変身 | キングドラゴンワリオ(飛行+火炎の複合) |
設計の核心
第2サイクルの幕開けにふさわしく、ステージ5は変身システムの要求水準を一段引き上げる。宝物「懐中時計」の入手には、飛行能力(イーグルワリオ)と火炎能力(シードラゴンワリオ)の両方が必要だ。つまり、キングドラゴンワリオ──シリーズ最強にして、維持が最も難しい形態──でなければ到達できない。
ステージ1〜4で変身は「あれば便利」だった。ステージ5では「なければ先に進めない」に変わる。この設計段差が、第2サイクルの始まりを告げている。
2層構造の使い方
森林という舞台設定により、木々が視界を遮る場面がある。手前と奥の対応関係がステージ1や2ほど明確でなく、どこにジャンプ台があるかを探す必要がある。2層構造に「探索的な不透明さ」が加わるステージだ。
変身との関係
宝物部屋への道は、飛行で「2つの枝の間」に着地し、火炎で木の壁を破壊するという複合アクションで開かれる。これは変身システムの「応用問題」であり、プレイヤーに「変身の組み合わせで世界が変わる」と実感させる場面だ。
第6層 滝 ── 垂直の挑戦状
「横から縦へ」
| テーマ | 滝 |
| 宝物 | ウェディングドレス |
| 設計上の役割 | 進行方向の転換──横スクロールから縦スクロールへ |
| 必要変身 | キングドラゴンワリオ |
設計の核心
ステージ1〜5は基本的に横方向に進む設計だった。ステージ6は、それを縦に変える。滝を登る=上に進む。この進行方向の転換は、同じ2層構造でも遊び心地を一変させる。横移動では左右にジャンプ台を探したが、縦移動では上下にジャンプ台を探す。空間の使い方がまるで違う。
2層構造の使い方
縦方向の進行と2層構造の組み合わせは独特の体験を生む。手前と奥の足場が交互に配置されることで、「上に行くには、まず手前で仕掛けを動作させ、奥に移動し、奥でアイテムを取って、また手前に戻る」という立体的なルートが生まれる。平面的な地図では表現できない、文字通り「立体的」な攻略が求められるステージだ。
第7層 砂漠 ── 足場という信頼の崩壊
「立っている場所が沈む」
| テーマ | 砂漠(流砂) |
| 宝物 | 王冠 |
| 設計上の役割 | 安全圏の剥奪──足場の信頼性を崩す |
| 必要変身 | キングドラゴンワリオ |
設計の核心
ステージ7の流砂ギミックは、これまでのすべてのステージが暗黙に保証していた「足場は安定している」という前提を崩す。立ち止まれば沈む。止まることが死につながる。プレイヤーは常に動き続けなければならない。
この設計は第2サイクルの最終ステージにふさわしい。ステージ5で変身の複合利用を学び、ステージ6で縦方向の緊張を体験し、ステージ7で「安全な場所がない」という究極の不安を突きつけられる。ボス前の3ステージで段階的にプレッシャーを強めていく設計だ。
2層構造の使い方
流砂と2層構造の組み合わせは、判断の時間的余裕を奪う。通常なら「どのジャンプ台で奥に行くか」を落ち着いて考えられるが、流砂の上では考えている間に沈む。「判断の速さ」がゲームスキルとして要求される初めてのステージだ。
敵と敵の組み合わせ
このゲームの面白いところは、最後のボスに至るまで敵にぶつかっても無条件にダメージを受けないことだ。現実のようにぶつかるだけ。ある意味、ワリオと敵は平等なのである。
そして砂漠のステージでは、その設計思想の究極の姿が現れる。黒い竜巻の敵だ。なんと味方のように使える。ヨッシーのように上に乗れば、移動を助けてくれるのだ。さらに、この黒い竜巻を使って別の巨大な敵を倒すこともできる。「敵」と「味方」の境界線がなく、使い方次第で関係が変わる。これはこのゲーム全体の「敵にぶつかっても平等」という設計思想が、ステージギミックのレベルで花開いた瞬間だ。
第8層 サンドフィッシュ ── 見えない敵
「パターンから予測へ」
設計の核心
サンドフィッシュのステージは、あの「ドラゴンボール」などを描いた天才漫画家、鳥山明が描いたようなシンプルでちょっとかっこいい砂漠の世界だ。余計な装飾がなく、赤と黒の砂地がどこまでも続く。その潔さが、ボス戦の緊張感を引き立てている。
第2サイクルのボスは、第1サイクルのダイナソーフィッシュとは設計原理が異なる。ダイナソーフィッシュは「見える敵を踏む」だった。サンドフィッシュは「砂の中に潜んでいる敵が、どこから出てくるかを予測して踏む」。見えるものへの反応から、見えないものへの予測へ。要求されるスキルが一段進化している。
しかもサンドフィッシュには愛嬌がある。ワリオがいると思った場所に飛び出したのに空振りすると、「あれ?」とでも言いたげなコミカルな表情でキョロキョロする。しっかりした見た目なのにボケる──ギャグ漫画のようなその間が、つい突っ込みたくなる。ボス戦なのに笑える。この緊張と笑いの同居は、ワリオシリーズならではの設計だ。
第9層 スイカ園 ── パズルという休息
「力ではなく知恵で」
| テーマ | 温室(スイカ園) |
| 宝物 | スイカ(推定) |
| 設計上の役割 | テンポの緩和──パズル要素の導入 |
| 特徴 | スイカパズルギミック、船の入手 |
設計の核心
ステージ5〜8は難度を段階的に引き上げてきた。ステージ9は、そのテンションを意図的に緩める設計になっている。スイカのギミックは、思考ではなくタイミングだ。スイカをどのタイミングで放り投げて、うまいこと奥にある足場に着地させるか。指先の感覚がものを言う。
この「緩急」の設計は重要だ。ゲーム全体を同じ難度で走り続けると、プレイヤーは疲弊する。第2サイクルのボスを超えた直後に、テンポを落とすステージを挟むことで、第3サイクルに向けて体力を回復させている。
第10層 城跡 ── 迷路の設計哲学
「空間記憶の試験」
| テーマ | 城跡 |
| 宝物 | 馬の像 |
| 設計上の役割 | 空間認識と記憶力への挑戦 |
| 特徴 | 柱時計ギミック、中ボス「デンプー」 |
設計の核心
ステージ10は本作で最も多くのプレイヤーが迷うステージだ。柱時計が秘密の通路になっている迷路構造は、これまでの「右に進めばゴール」という暗黙の約束を破る。同じ部屋に何度も戻ってきてしまう。3つ並んだ柱時計の「中央だけ針が速い」という手がかりに気づけるかどうかが分岐点になる。
ここには「観察力」が試されている。力でも技でもなく、環境をよく見ること。「何かがおかしい」と気づく目。そしてその違和感を行動に変える判断力。ステージ10は、アクションゲームの中にアドベンチャーゲームの設計思想を持ち込んだステージだ。
第11層 工場 ── メカニズムの集大成
「すべてのギミックが同時に動く」
| テーマ | 工場 |
| 宝物 | (ステージ内収集品) |
| 設計上の役割 | ギミックの総合演習──送風機 |
| 必要変身 | キングドラゴンワリオ |
設計の核心
ステージ11は、これまでの10ステージで個別に教えてきた要素を同時に動かすステージだ。そして今までになかった手前と奥へ移動できる意外なギミックがジャンプ台以外にも隠されている。 もんじゃ焼きのヘラみたいなのが足場を動かし、送風機が移動を妨げる。2層構造、変身、パターン認識、空間記憶──。すべてが同時に要求される。
工場という舞台は、この「複合ギミック」に最適だ。機械が連動して動く空間だからこそ、複数のギミックが同時に作動することに違和感がない。舞台設定と設計意図が完全に一致している。
第12層 タンク ── 動く戦場
「戦場そのものが敵なのか」
設計の核心
第3サイクルのボスは、これまでのボス設計の集大成だ。 ダイナソーフィッシュは奥と手前を行き来していた。 サンドフィッシュは砂から出てきた。タンクは「乗り物」であり、まるで戦場そのものが動くかのようだ。
3体のボスで「静→半動→動」と環境の動的レベルが上がっていく設計は、プレイヤーの適応力を段階的に試している。 静止した敵を倒し、半分隠れた敵を予測して倒し、動き回る敵に飛び乗って倒す──。ボス戦の設計曲線そのものが、ゲーム全体の難度曲線と同期している。
第13層 神殿 ── 記憶力への最終問
「来た道を戻れるか」
設計の核心
ステージ13の設計は大胆で、他のどのステージとも異なる構造を持っている。通常ステージは「スタート→ゴール」の一方向だが、ステージ13は「スタート→奥地→戻る」という往復構造になっている。 宝物の入手には、人によってはステージの奥まで進んでからスタート地点近くまで戻ってくる必要がある。(わかっているとすぐ取れるのだが、意外とわからない)
ラスボス直前の最後の通常ステージに、この構造を持ってきた意図は明確だ。「来た道を覚えているか?」──。これはゲーム全体を通じて培った空間記憶力の最終試験なのだ。
2層構造の使い方
神殿の2層構造は、往路と復路で役割が変わる。往路は手前レイヤー中心に進み、復路は奥レイヤーを活用して別ルートで戻る。同じステージなのに、往路と復路でまるで別のステージをプレイしているような感覚になる。ひとつの空間を二度楽しませる設計だ。
第14層 デーモンヘッド ── 30年の封印
「この赤い世界の最上層」
設計の核心
14層の最上層。アワゾンの秘宝を守る古代の悪魔デーモンヘッド。最終ボスの設計は、ゲーム全体の設計哲学を反映している。
デーモンヘッドは、これまでのボスたちの要素を統合した存在だ。パターンを読む(ダイナソーフィッシュ)、出現位置を予測する(サンドフィッシュ)、動く標的を捉える(タンク)──。3体のボスで段階的に学んだスキルを、すべて同時に使って倒す。鼻への連続攻撃が基本戦術だが、そこに至るまでの避けと見極めに、14ステージ分の経験が凝縮される。
2層構造の使い方
最終ステージは、2層構造だけで成り立っている。ステージそのものがトランポリンのように跳ねる仕組みで、ジャンプすれば手前と奥に移動する。デーモンヘッドはこの奥と手前の間を左右に移動しており、ダメージを与えるには奥へジャンプしてデーモンヘッドの鼻にアタックするしかない。つまり、手前と奥の行き来そのものが攻撃手段になっている。このステージほど同じ場所で手前と奥を行き来することは、全14ステージを通して他にない。まさに2層構造の集大成であり、13ステージかけて身につけた「奥と手前を使い分ける感覚」がそのまま最終ボスの攻略法になるという、見事な締めくくりだ。
総括 ── 14層が描く設計曲線
14ステージを通して眺めると、設計の「曲線」が見えてくる。
第1サイクル(ステージ1〜4)は「導入」だ。2層構造、変身、水中操作という基本ルールを順に提示し、最初のボスで試験する。プレイヤーはここで「このゲームの文法」を学ぶ。
第2サイクル(ステージ5〜8)は「深化」だ。変身の複合利用、縦方向の進行、流砂による安全圏の剥奪と、既知のルールの「応用問題」が次々と出される。サンドフィッシュ戦の「予測」は、ダイナソーフィッシュ戦の「反応」から一段上がっている。
第3サイクル(ステージ9〜12)は「統合」だ。パズル、迷路、複合ギミック、動くボスと、ジャンルすら横断する多様なステージが並ぶ。ここまでに学んだすべてのスキルを同時に使うことが要求される。
最終章(ステージ13〜14)は「完結」だ。ステージ13の往復構造は空間記憶の最終試験であり、ステージ14のデーモンヘッドは戦闘スキルの最終試験だ。そして、どのエンディングを見るかは、14ステージを通じた「遊びの深さ」に委ねられる。
この曲線は、プロジェクトナレッジの概念で言えば「問題→課題→テーマ→コンセプト→実現」の流れに似ている。プレイヤーに「問題」を提示し(ステージ1-4)、「課題」を突きつけ(ステージ5-8)、「テーマ」を統合させ(ステージ9-12)、最終的に「コンセプト」──このゲームはどういうゲームだったのか──をプレイヤー自身に語らせる(ステージ13-14)。14ステージは、プレイヤーの中にゲーム体験を「企画」させる仕組みなのだ。
結語 ── あなたの赤い冒険のために
1995年12月1日に封じ込められた14層の設計思想が、2026年2月17日に再び地上へ現れる。30年間、赤と黒の世界で眠り続けていたゲームデザインの知恵が、Nintendo Switchの画面を通じて、新しいプレイヤーの手に届く。
このページは「視点のスポイラー」だ。宝物の場所は教えていない。ボスの倒し方も書いていない。しかし、各ステージを見る「目」は変わったはずだ。ステージ1の最初のジャンプ台で奥に移動したとき、「ああ、これがチュートリアルの設計か」と思えるかもしれない。ステージ7の流砂に沈みながら「足場の信頼性を崩す設計ね」と感じるかもしれない。
その「視点」を持ってプレイすることは、ゲームの面白さを減らすのではない。むしろ、「なぜ面白いのか」がわかることで、面白さの解像度が上がる。設計者との無言の対話が始まる。「ここをこうしたのは、こういう意図だったのか」──。そうした発見のひとつひとつが、もうひとつの冒険になる。
攻略が必要なら完全攻略ガイドがある。初めてなら初心者ガイドから。変身の詳細はデータベースで。ベストエンディングの条件は検証・考察ページで確認できる。
14層の赤い断面図。その最上層には、横井軍平が「Virtual Utopia」と名づけた理想郷がある。
さあ、登り始めよう。
読了チェックリスト
各層の設計思想を読了したらチェック
よくある質問(FAQ)
バーチャルボーイワリオランドの設計思想「4本の柱」とは?
全14ステージを貫く設計の柱は4本あります。①2層構造(手前と奥のレイヤーを行き来する立体視システム)、②変身システム(ブル・イーグル・シードラゴン・キングドラゴンの4形態)、③宝物×エンディング分岐(10個の宝物とクリアタイムで6種類に分岐)、④カギ×エレベーター接続(各ステージでカギを見つけ次の層へ上がる一本道構造)です。
全14ステージの設計サイクルはどうなっている?
全14ステージは3+1のリズムで構成されます。第1サイクル(ステージ1〜4)は「導入」、第2サイクル(ステージ5〜8)は「深化」、第3サイクル(ステージ9〜12)は「統合」、最終章(ステージ13〜14)は「完結」です。3つの通常ステージで新要素を学び、4つ目のボスステージで試される構造です。
ベストエンディングの条件は?エンディングは何種類ある?
エンディングは全6種類あります。最も報酬の大きいベストエンディングの条件は「宝物10個すべて」+「1時間30分以内クリア」です。探索の完全さと効率の両立が求められ、この二律背反が2周目以降のプレイ動機になっています。
開発スタッフは誰?
プロデューサーは横井軍平氏、ディレクターは清武博二氏と松岡洋史氏の共同体制、音楽は戸高一生氏(後の『どうぶつの森』シリーズ作曲家)です。任天堂開発第一部(R&D1)が開発を担当しました。