ゴールデンアイ配信の裏側――
任天堂がN64を月1本ずつしか出さない本当の理由
3社の利害が一致した"奇跡"と、計算され尽くした配信戦略
この記事を読むと分かること
読了時間:約5分 | 任天堂がNintendo 64タイトルを「月1本ペース」で配信する本当の理由と、ゴールデンアイ007配信実現の裏側を、データと企業戦略の観点から徹底解説。
配信戦略の3つの柱
任天堂製・レア社製・他社製という明確な配信パターンと、それぞれの狙いが明らかに
ゴールデンアイ配信の真相
任天堂・MS・映画会社の3者間交渉がなぜ成功したのか、その驚きの舞台裏
未配信タイトルの理由
権利問題だけじゃない、技術的課題とブランド戦略が配信を阻む本当の理由
こんな方におすすめ
- Nintendo Switch Online加入を検討中の方
- 懐かしのN64タイトルがなぜ配信されないか疑問に思っている方
- ゲーム業界のビジネス戦略に興味がある方
- レトロゲーム配信サービスの仕組みを理解したい方
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月1本。この配信ペースに、任天堂の全てが詰まっている
Nintendo Switch Online + 追加パックで遊べる「NINTENDO 64 Nintendo Switch Online」を、適当に選んでリリースしていると思っているなら、それは大きな勘違いだ。どのゲームをいつ配信するかは、任天堂がお客さんを飽きさせずに月額料金を払い続けてもらうために、どうすれば良いのか?よ〜く考えられた作戦の一部なのだ。
どのゲームが、いつ配信されるのか。その裏側には、はっきりとした狙いがある。この記事では、配信されるゲームの数やジャンル、そして会社同士の関係という3つの角度から、任天堂の作戦の全体像をわかりやすく説明する。
第1部:なぜ任天堂は一気に出さないのか?
一度にたくさん配信しない理由
サービスは2021年10月26日、9本の大人気ゲームで始まった。『スーパーマリオ64』『ゼルダの伝説 時のオカリナ』『マリオカート64』など、誰もが知っている名作を最初から用意。追加パックの料金に納得してもらうため、最初にインパクトのあるゲームを揃えたのだ。
でも任天堂は、その後一気にゲームを増やすことはしなかった。代わりに月1〜2本のペースで少しずつゲームを増やす「小出し作戦」を選んだのだ。
2022年は、ほぼ毎月1本(7月と11月は2本)のペースでゲームが追加された。2023年も同じような感じで、たまに複数のゲームが同じ日に配信されることもあったが、基本的には予想できるペースで続いている。
一気に出せば、会員は去る
この配信ペースは、技術的な問題があるわけじゃない。はっきりとした作戦に基づいている。
もし全部一気に配信したらどうなるか。お客さんは短い期間で全部遊んでしまい、「もう満足した」と感じて解約してしまう。
でも月1本の「小出し配信」なら、懐かしいゲームを「毎月のお楽しみ」にできる。毎月の小さな追加でも、ゲームニュースになり、SNSで話題になり、サービスを思い出してもらえる。新しいゲームが追加されるたびに、お客さんは「また遊んでみよう」と思い、まだ加入していない人には「サービスがどんどん良くなっている」と感じてもらえる。
この配信リズムは、長くお客さんに楽しんでもらいつつ、話題作りにもなる、とても賢い方法だ。
四半期別の配信データを見れば、任天堂の意図が見えてくる。
配信の波:3ヶ月ごとのデータが示すパターン
表1:NINTENDO 64 Nintendo Switch Online 四半期別配信タイトル数
| 四半期 | 配信タイトル数 | 主な配信タイトル |
|---|---|---|
| 2021年 Q4 | 9 | スーパーマリオ64、ゼルダの伝説 時のオカリナ、マリオカート64 他 |
| 2022年 Q1 | 3 | バンジョーとカズーイの大冒険、ゼルダの伝説 ムジュラの仮面、F-ZERO X |
| 2022年 Q2 | 3 | マリオゴルフ64、星のカービィ64、ポケモンスナップ |
| 2022年 Q3 | 3 | カスタムロボ、カスタムロボV2、ウェーブレース64 |
| 2022年 Q4 | 3 | パイロットウイングス64、マリオパーティ、マリオパーティ2 |
| 2023年 Q1 | 0 | - |
| 2023年 Q2 | 1 | ポケモンスタジアム2 |
| 2023年 Q3 | 2 | ポケモンスタジアム金銀、エキサイトバイク64 |
| 2023年 Q4 | 5 | マリオパーティ3、ゴールデンアイ 007、牧場物語2 他 |
| 2024年 Q1 | 0 | - |
| 2024年 Q2 | 2 | ブラストドーザー、パーフェクトダーク |
| 2024年 Q3 | 0 | - |
| 2024年 Q4 | 1 | バンジョーとカズーイの大冒険2 |
| 2025年 Q1 | 2 | 時空戦士テュロック、バイオレンスキラー |
| 2025年 Q2 | 1 | リッジレーサー64 |
初年度に10本、その後は年3〜14本。空白期間も存在する。
このリズムは偶然じゃない。計算されている。
注目すべきは、ゴールデンアイやパーフェクトダークといった「話題性の高いタイトル」が、あえて後から投入されている点だ。
サービスの鮮度を保ち、会員の関心を繋ぎ止めるための戦略的配置である。
ジャンル構成が語る「狙い」
配信タイトルを分析すると、任天堂の明確な意図が見えてくる。
配信されるゲームのジャンルを見ると、N64が得意だった3Dゲームを大切にしながら、いろんな人が楽しめるように工夫していることがわかる。
まず中心になるのは、3Dアクションゲームとレースゲームだ。これらはN64が家庭用ゲーム機で初めて本格的な3Dゲームを実現した時代を代表するジャンルだ。 『スーパーマリオ64』 『ゼルダの伝説』シリーズ、 『バンジョーとカズーイの大冒険』シリーズといったゲームが、このジャンルの充実ぶりを物語る。
レースゲームも豊富だ。『マリオカート64』 『F-ZERO X』 『ウェーブレース64』といったゲームは、N64のいろんな3D表現と対戦の楽しさを体験できる。
でも作戦はそれだけじゃない。『マリオパーティ』シリーズ3作品を全部入れたのは、 N64が「みんなで遊ぶ」文化を作った重要なゲーム機だったことをよく理解した選び方だ。これらのパーティゲームは、オンラインで友達と遊べるようになって、今でも楽しく遊べる。
さらに、『マリオストーリー』 『カスタムロボ』シリーズといったRPG要素があるゲームも重要だ。 これらは、アクションやレースが苦手な人にも楽しんでもらえて、サービスに幅を持たせている。
特に『ポケモンスタジアム』シリーズや『ポケモンスナップ』を追加したことは、世界中で大人気のポケモンの力を使って、幅広い世代のファンをサービスに呼び込むための賢い選択だ。
このジャンルの組み合わせは、N64の全部のゲームと比べると意図がよくわかる。たくさん出ていたスポーツゲーム(特にアメリカ向け)や、権利が複雑なキャラクターゲームの多くは、わざと避けている。任天堂は全部のゲームを揃えようとしているんじゃない。一番多くの人に、長く楽しんでもらえると判断した、選び抜かれたジャンルとゲームに力を注いでいるのだ。
第2部:昔のゲーム配信は、新作を売るための"仕掛け"だ
過去と現在をつなぐ上手な方法
N64のゲームライブラリは、ただの懐かしいゲーム集じゃない。
配信のタイミングは、新作ゲームの販売作戦とつながっている。
ゼルダとマリオという任天堂の二大看板シリーズを詳しく見れば、その作戦がはっきりと分かる。
事例1:ゼルダの伝説――1年半前からの完璧な準備
一番はっきりと作戦が見えるのが、ゼルダの伝説シリーズだ。
2021年10月26日 → N64版『ゼルダの伝説 時のオカリナ』配信
2022年2月25日 → N64版『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』配信
2023年5月12日 → Switch版『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』発売
『ティアーズ オブ ザ キングダム』発売の約1年半前から、ゼルダの代表作2本を計画的に配信。
これは偶然じゃない。
『時のオカリナ』と『ムジュラの仮面』は、3Dゼルダの始まりのゲームだ。
これらを先に配信することで:
- 初めての人には、シリーズの面白さを知ってもらう入口に
- 昔からのファンには、新作への期待感を少しずつ高める
1年半という期間は、話題を続けるのにちょうど良い長さだ。
昔のゲームで盛り上げて、新作で大きく売る。
完璧な販売作戦だ。
事例2:マリオシリーズ――いろんな角度からの作戦展開
マリオシリーズでは、複数のシリーズで違う作戦が使われている。
シリーズ全体を定期的に盛り上げる
2021年10月29日 → Switch版『マリオパーティ スーパースターズ』発売
2022年11月2日 → N64版『マリオパーティ』『マリオパーティ2』配信
2023年10月27日 → N64版『マリオパーティ3』配信
2024年10月29日 → Switch版『スーパーマリオパーティ ジャンボリー』発売
マリオパーティシリーズでは、新作発売後も昔のゲームを少しずつ配信。
1と2を同時に出して、3は約1年後。
この作戦の狙いははっきりしている:
- 一度に出さず、少しずつ配信することで、長い間話題を保つ
- 「次はいつ配信されるか」という期待感を続ける
- 年末のプレゼント商戦に向けて、マリオパーティというブランド全体を盛り上げる
結論:N64配信は「現役の宣伝ツール」だ
ゼルダとマリオの配信パターンから、2つの作戦が見えてくる:
- 新作発売前の長期的な準備――1年半前から昔のゲームで市場を温める(ゼルダ)
- 少しずつ配信して話題を続ける――一度に出さず、長い間注目を保つ(マリオパーティ)
任天堂は、過去の名作を未来の利益に変えている。
第3部:N64ライブラリに隠された「配信の裏事情」
なぜあのタイトルがないのか?
N64のゲームライブラリをよく理解するには、「誰がゲームを作ったか」という視点が大切だ。各ゲームの背景を見ると、このサービスのラインナップを決めている、表には見えない会社同士の複雑な関係、権利の交渉、そして協力関係が浮かび上がる。
このライブラリは、任天堂の今のビジネス関係を映し出す鏡だ。その選び方は、ファンの要望よりも、交渉しやすい道を選んだ結果になっている。
配信タイトルを支える「3つの柱」
第1のグループ:任天堂が作ったゲーム
『スーパーマリオ64』、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』、『マリオカート64』……これらは任天堂が社内で開発した作品で、権利は100%任天堂のものだ。
だから、いつでも好きなタイミングで配信できる。これがサービスの「土台」となっている。
第2のグループ:マイクロソフトとの特別な協力
ラインナップで最も驚くべきなのは、『バンジョーとカズーイの大冒険』や 『ゴールデンアイ 007』といった、レア社(Rare)のタイトル群だ。
レア社は今、ライバルであるマイクロソフトの傘下にある。つまり、Xbox陣営の会社が作ったゲームが、任天堂のサービスで遊べるという異常事態なのだ。
『ゴールデンアイ 007』の複雑さ
特に『ゴールデンアイ 007』は、配信に3者の合意が必要だった:
- ハードメーカー:任天堂
- 開発元の現在の持ち主:マイクロソフト
- 007の権利者:EONプロダクションズ/MGM
そしてこのタイトルは、Nintendo Switch OnlineとXbox Game Passで同時配信された。これは偶然ではなく、両社が協力した計画的リリースだったということだ。
お互いに得するWin-Win
- 任天堂:自社だけでは提供できない、N64を代表する超重要タイトルを確保できる
- マイクロソフト:眠っていたIPから収益を生み出し、任天堂ユーザーに自社ブランドを再認識させる
この前例のない協力は、現代ゲーム業界の「競争と協力の複雑な関係」を象徴している。
第3のグループ:いろんな他社との関係
任天堂が作ったゲームとレア社のゲーム以外は、いろんな他の会社が開発したゲームで構成されている。それぞれが違う交渉の背景を物語っている。
仲良しパートナー会社
ハル研究所(『星のカービィ64』『ポケモンスナップ』)やインテリジェントシステムズ(『マリオストーリー』)のように、昔から任天堂ととても仲が良い会社のゲームは、比較的スムーズに配信ラインナップに加わっている。これらはほとんど任天堂が作ったゲームに近い扱いだ。
買収された会社のゲーム
『マリオパーティ』シリーズは、ハドソンという会社が作ったが、ハドソンは後にコナミという会社に吸収された。これらのゲームが配信されているということは、任天堂とコナミの間に良い関係が続いていることを示している。
海外のパートナー会社
『時空戦士テュロック』とその続編は、Iguana Entertainmentが開発し、今はなくなったアクレイムが販売していた。これらのゲームの権利は、最近リマスター版を作ったNightdive Studiosなどが持っているとみられる。その配信は、権利関係の調査と交渉という「考古学のような作業」を乗り越えた成果だ。
ユニークな例
『リッジレーサー64』は、任天堂のアメリカのスタジオが作ったが、ゲーム自体の権利はバンダイナムコが持っている。また、『ウィンバック』は、コーエーテクモゲームスが作っており、N64の代表的な大ヒット作とは少し違う、通好みの選び方だ。
これらの例は、任天堂がライブラリを作る上で、画一的な方法じゃなく、個々のゲーム、個々の権利を持つ会社と丁寧に交渉を重ねていることを示している。そして、このライブラリにどのゲームが含まれ、どのゲームが含まれていないのかは、そうした交渉の成功と失敗を物語っているのだ。
結論:ラインナップは「ビジネスの地図」である
どのタイトルが入っていて、どのタイトルが入っていないか——それは、任天堂と各企業との関係性を如実に映し出している。
つまり、このライブラリは単なる「懐かしのゲーム集」ではなく、現在進行形のビジネス関係図なのだ。
表2:開発元・権利元から見るライブラリ構造
| タイトル | オリジナル開発元 | オリジナル発売元 | 現在の主要IPホルダー(推定) | 分類 |
|---|---|---|---|---|
| スーパーマリオ64 | 任天堂情報開発本部 | 任天堂 | 任天堂 | 第1の柱 |
| ゼルダの伝説 時のオカリナ | 任天堂情報開発本部 | 任天堂 | 任天堂 | 第1の柱 |
| マリオカート64 | 任天堂情報開発本部 | 任天堂 | 任天堂 | 第1の柱 |
| F-ZERO X | 任天堂情報開発本部 | 任天堂 | 任天堂 | 第1の柱 |
| バンジョーとカズーイの大冒険 | レア | 任天堂 | Microsoft | 第2の柱 |
| ゴールデンアイ 007 | レア | 任天堂 | Microsoft / EON | 第2の柱 |
| パーフェクトダーク | レア | 任天堂 | Microsoft | 第2の柱 |
| 星のカービィ64 | ハル研究所 | 任天堂 | 任天堂 / ハル研究所 | 第3の柱 |
| 時空戦士テュロック | Iguana Entertainment | アクレイム | Nightdive Studios | 第3の柱 |
| リッジレーサー64 | Nintendo Software Technology | 任天堂 | バンダイナムコ | 第3の柱 |
第4部:配信できない理由は「権利」だけじゃない
任天堂が選んだ解決策:18歳以上専用アプリ
任天堂がN64ライブラリで直面したであろう課題の一つが、「暴力表現を含むゲームをどう扱うか」だ。
『ゴールデンアイ 007』や『パーフェクトダーク』は、N64を代表する名作だ。しかし、これらは銃撃戦がメインのゲームであり、CEROレーティングでは「18歳以上対象」に分類される。
任天堂のブランドイメージは「家族みんなで楽しめる」だ。もし、メインアプリで『ヨッシーストーリー』の隣に『パーフェクトダーク』が並んでいたら、どうだろう?
保護者は混乱し、任天堂への信頼が揺らぐ。
そこで任天堂が選んだのが、「別アプリ」という解決策だった。
- 日本:「NINTENDO 64 Nintendo Switch Online 18+」
- 海外:「Nintendo 64 – Nintendo Switch Online: MATURE 17+」
この戦略により、任天堂は次の2つを両立させた:
- メインアプリは「安心・安全」を維持
- 大人向けタイトルも「意図的にアクセスする形」で提供
これは、ブランドを守りながらファンの要望にも応える、見事な折衷案だ。
ヨーロッパの長年の不満を解消:50Hz問題
バーチャルコンソール時代から、ヨーロッパのプレイヤーを悩ませてきた問題がある。それが、「PAL版は遅い」という問題だ。
簡単に言うと:
- NTSC版(日本・北米):60Hzで動作 = 滑らか
- PAL版(ヨーロッパ):50Hzで動作 = やや遅い
当時、ヨーロッパで発売されたN64ゲームの多くはPAL版だったため、日本や北米のプレイヤーより不利なゲーム体験を強いられていた。
Nintendo Switch Onlineでは、この問題を根本から解決した。全世界で60HzのNTSC版(英語)を標準配信している。
つまり、ヨーロッパのプレイヤーも、初めて「本来の速度」でN64ゲームを楽しめるようになったのだ。
さらに、「当時のPAL版を懐かしみたい」という声にも配慮し、一部タイトルではPAL版も選択可能にしている。
これは、過去の批判を真摯に受け止め、改善した結果だ。
配信されないタイトルの「技術的な理由」
「なぜ『スマブラ』がないの?」——そう疑問に思う人は多い。
実は「技術的に難しい」という理由も想定される。
N64は、その独特なハード構成ゆえに、エミュレーション(再現)が非常に難しいゲーム機として知られている。特に:
- 拡張パックが必要なゲーム(例:『ドンキーコング64』) = メモリ管理が複雑
- 特殊チップ搭載カートリッジ = 通常のエミュレーションでは再現困難
- 高速処理が必要なゲーム = わずかな遅延も許されない
任天堂の品質基準はとても高い。「動けばいい」ではなく、「完璧に動くこと」が求められる。
だから、配信が遅れているタイトルの中には、「権利はOKだが、技術的に完璧に再現できていない」ものも含まれている可能性が高い。
任天堂は、速さより品質を優先する企業だ。この見えない技術的ハードルが、ラインナップの選定と配信順序に静かに影響を与えている。
まとめ:配信できない理由は複雑だ
N64タイトルが配信されない理由は、一つではない:
- 権利交渉の難航
- ブランドイメージとの兼ね合い
- 技術的な再現の困難さ
これらが複雑に絡み合い、私たちが目にする「配信リスト」が形作られている。
「なぜあのゲームがないのか?」——その答えは、想像以上に深いのかもしれない。
第5部:次に来るタイトルと任天堂の本当の狙い
次に来そうなタイトルを予測する
これまでの分析から見えた「3つの柱」をもとに、今後の追加タイトルを予測してみよう。
【第1の柱:任天堂製】まだ配信されていない重要タイトル
『大乱闘スマッシュブラザーズ』は、きっといつか来るだろう。初代は任天堂キャラのみで構成されているため、権利的な障壁は低い。
一方、『ディディーコングレーシング』は難しい。レア社が開発したが、キャラクターの多くは任天堂が所有しているという複雑な権利関係があるからだ。ただ、レア社との良好な関係が続けば、いずれ実現する可能性はある。
【第2の柱:レア社製】大人向けアプリを強化する候補
『ゴールデンアイ 007』と『パーフェクトダーク』が既に配信された今、次に注目されるのは『Conker's Bad Fur Day』だ。
このタイトルは、過激な下ネタと暴力表現で悪名高いが、だからこそ「18歳以上向けアプリ」のラインナップを強化する絶好の候補となる。
【第3の柱:他社製】既存パートナーからの追加が中心
最も現実的なのは、既に関係がある企業からの追加だ:
- コナミ(旧ハドソン):『ボンバーマン64』『がんばれゴエモン』シリーズ
- コーエーテクモ:N64で発売された他のタイトル
一方、新規パートナーからの追加は期待薄だ。スクウェア・エニックス(『チョコボの不思議なダンジョン2』)やルーカスアーツ(『スター・ウォーズ 出撃!ローグ中隊』)などは、新たなビジネス関係が結ばれない限り、登場しないだろう。
配信されない3つの理由
「なぜあのゲームが配信されないのか?」——その答えは、次の3つに集約される:
- 権利の壁
開発元とキャラクター権利者が異なるタイトル(『ディディーコングレーシング』)は、交渉が複雑化する。 - 技術的な課題
拡張パック必須の『ドンキーコング64』や、特殊チップ搭載タイトルは、完璧な再現が難しい。任天堂は「動けばいい」では許さない。 - 新規パートナーの不在
これまで参加していない企業のタイトルは、新たなビジネス関係が構築されない限り、登場しない。
任天堂の本当の狙い:N64配信は5つの役割を担っている
この分析を通じて明らかになったのは、N64配信が単なるファンサービスではないということだ。
これは、任天堂の企業戦略において、5つの役割を同時に果たす精密な仕組みだ:
- 収益の柱
「追加パック」の価値を引き上げ、継続的な収益を生み出す。 - 会員維持の仕掛け
月1本のペースで追加することで、会員の関心を保ち、解約を防ぐ。 - 新作の宣伝装置
懐かしさを利用して、新作の認知度と売上を支援する(例:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』配信→『ティアーズ オブ ザ キングダム』発売)。 - 企業関係の地図
どの企業のタイトルが含まれているかで、任天堂の現在のビジネス関係が見える(例:マイクロソフトとの協力)。 - ブランド管理の手段
大人向けアプリを分離することで、「家族向け」というブランドイメージを守りながら、大人のファンにも応える。
結論:配信リストは任天堂の戦略地図だ
月1本の配信ペース。新作と連動したタイミング。マイクロソフトとの異例の協力。大人向けタイトルの分離——。
N64配信は、ファンサービスではない。これは計算され尽くしたビジネス戦略だ。
任天堂は、過去の名作を単に「懐かしむもの」として提供しているのではない。それを、現在の収益と未来の成功に繋げる戦略的な資産として活用している。
一つ一つのタイトル追加(あるいはその不在)は、懐かしさ、権利コスト、マーケティング効果、技術的実現可能性、そしてブランドイメージ——これらすべてを考慮した、精密な経営判断の結果なのだ。
私たちが目にする配信リストは、任天堂が自社の輝かしい過去を、いかにして未来の利益に変えているかを示す、生きた証拠だ。
そして、それは見事に成功している。
よくある質問(FAQ)
付録: N64配信タイトル完全データベース
Nintendo Switch Onlineで配信されているNINTENDO 64タイトルの完全リスト。発売日、配信日、ジャンルを一覧で確認できます。タイトル名をタップすると詳細ページへジャンプします。
| タイトル | 発売日 | 配信日 | ジャンル |
|---|---|---|---|
| ゴールデンアイ 007 | 1997.08.23 | 2023.11.30 | 3Dガンアクション |
| パーフェクトダーク | 2000.10.21 | 2024.06.19 | 3Dガンアクション |
| 時空戦士テュロック | 1997.12.19 | 2025.01.31 | 3Dガンアクション |
| バイオレンスキラー TUROK NEW GENERATION | 1999.03.11 | 2025.01.31 | 3Dガンアクション |
| ウィンバック | 1999.09.23 | 2021.10.26 | 3Dガンアクション |
| スターツインズ | 1999.12.01 | 2023.11.30 | 3Dガンアクション |
| カスタムロボ | 1999.12.08 | 2022.07.15 | 3Dアクション |
| カスタムロボV2 | 2000.11.10 | 2022.07.15 | 3Dアクション |
| スーパーマリオ64 | 1996.06.23 | 2021.10.26 | 3Dアクション |
| バンジョーとカズーイの大冒険 | 1998.12.06 | 2022.01.21 | 3Dアクション |
| バンジョーとカズーイの大冒険2 | 2000.11.27 | 2024.10.25 | 3Dアクション |
| ブラストドーザー | 1997.03.21 | 2024.04.24 | 3Dアクション |
| 星のカービィ64 | 2000.03.24 | 2022.05.20 | 3Dアクション |
| ヨッシーストーリー | 1997.12.21 | 2021.10.26 | 3Dアクション |
| ゼルダの伝説 時のオカリナ | 1998.11.21 | 2021.10.26 | アクションRPG |
| ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 | 2000.04.27 | 2022.02.25 | アクションRPG |
| マリオストーリー | 2000.08.11 | 2021.12.10 | アクションRPG |
| ポケモンスナップ | 1999.03.21 | 2022.06.24 | カメラアクション |
| 牧場物語2 | 1999.02.05 | 2023.12.08 | シミュレーション |
| スターフォックス64 | 1997.04.27 | 2021.10.26 | シューティング |
| 罪と罰 〜地球の継承者〜 | 2000.11.21 | 2021.10.26 | シューティング |
| エキサイトバイク64 | 2000.06.23 | 2023.08.30 | スポーツ |
| テン・エイティ スノーボーディング | 1998.02.28 | 2023.12.08 | スポーツ |
| パイロットウイングス64 | 1996.06.23 | 2022.10.13 | スポーツ |
| マリオゴルフ64 | 1999.06.11 | 2022.04.15 | スポーツ |
| マリオテニス64 | 2000.07.21 | 2021.10.26 | スポーツ |
| マリオパーティ | 1998.12.18 | 2022.11.02 | テーブル |
| マリオパーティ2 | 1999.12.17 | 2022.11.02 | テーブル |
| マリオパーティ3 | 2000.12.07 | 2023.10.27 | テーブル |
| ウェーブレース64 | 1996.09.27 | 2022.08.19 | レース |
| F-ZERO X | 1998.07.14 | 2022.03.11 | レース |
| マリオカート64 | 1996.12.14 | 2021.10.26 | レース |
| RIDGE RACER 64 | 2000.02.14 | 2025.05.16 | レース |
| ポケモンスタジアム金銀 | 2000.12.14 | 2023.08.08 | 対戦 |
| ポケモンスタジアム2 | 1999.04.30 | 2023.04.12 | 対戦 |